ノズノコギリクワガタ
Prosopocoilus nozui Fujita, 2010
フィリピン ルソン島 南カマリネス Mt.Isarog WF2
クワガタとは思えぬ異様な風貌が魅力の小型種。赤い体色も個人的にはGoodです。
WF2が流通し始めたあたりから値段が落ち着いてきましたので、実物見たさで入手しました。
コバエに苛まれたり幼虫が溶けたり等、頭を抱える事象が多くまともに記録をつけていませんでしたが、羽化までこぎつけた中で気づいた点をまとめておこうと思います。
1.ペアリング
活発に動き回り、飛翔行動をとっていれば成熟していると考えていいと思います。この手の小型種ははっきりとした後食の確認が難しいため行動で判断するとよいでしょう。
購入元での羽化確認日は4月の下旬、産卵セット開始は7月の頭であったため、活動開始までは羽化後4か月程度が目安になるかと思います。
交尾意欲は旺盛なので、目視で確認できます。♀殺しの発生しやすさについては言及できませんが、アゴを縛るのも面倒なので同居期間は短めがよいと思います。
2.産卵セット
よくあるノコギリセットでOKです。マット固詰め+軟材埋め込みで多数産卵します。温度も特別気を使うことはないと思いますが、20℃下回ると産まないような気がします。なんとなく。確信はない
マットにも材にも産卵を確認できましたが、側面から見えていた卵がことごとく消滅するという憂き目に遭いました…。
3.幼虫飼育
私はクワガタ用の発酵マットを用いました。菌床飼育も可能かもしれませんが試していません。
20頭以上採れた幼虫がこの段階で10頭弱落ちています。近縁のフランシスノコギリでも同様の飼育をおこないましたがこちらはほぼ死亡することがありませんでしたので、幼虫が虚弱な種類と推察しています。しかしながら、トリコデルマが発生した中で成長していた個体もいました。弱いのか強いのかよくわかりません。
容器サイズは250ccのプリンカップを用いましたが、コバエ対策を怠ったため多くのカップでコバエが爆湧き…。コバエが湧いてしまった容器の個体はパンケースにまとめて飼育しました。
管理温度は冬場だったため16~18℃くらいであったと記憶しています。
幼虫期間は4~7か月程度ですが、多くの種に漏れず♀の方がやや早く羽化します。
4.蛹~羽化
最初に、ティッシュ蛹室使った♂は死にました(3個体くらい)。ティッシュに蛹の臀部突起が引っ掛かり体力を消耗した、蛹の管理温度が低かった、私がティッシュ蛹室を作るのが下手等の要因が考えられますが、これまた近縁種のフランシスは同条件でも綺麗に羽化したため本当によくわかりません。
自然蛹室で羽化した個体は特に死亡することはありませんでした。
250カップ飼育の個体よりもパンケースタコ飼い個体の方が大型に見えました。容量依存の可能性が考えられますが、n=5のためなんとも言えません。次回はサンプル数を増やして試したいところです。
5.羽化個体紹介
♂①28.4mm PNWF3-09
2021年8月25日 割出 北斗恵栽園クワガタ発酵マット@250ccプリカ
2021年10月25日 コバエ発生に伴いパンケースにて6頭タコ飼い
2022年3月15日 羽化
羽化して間もないため縮む可能性あり。
♂②29.3mm PNWF3-13
2021年8月25日 割出 北斗恵栽園クワガタ発酵マット@250ccプリカ
2021年10月25日 コバエ発生に伴いパンケースにて6頭タコ飼い
2022年3月5日 羽化確認
最大個体。パンケひっくり返した瞬間「これはデカい!」と震えた。コイツを親にしてレコード狙っていきたい。
♂③28.0mm PNWF3-17
2021年8月25日 採卵
2021年9月28日 北斗恵栽園クワガタ発酵マット@250ccプリカ
2022年2月21日 羽化
♂④24.8mm PNWF3-23
2021年9月28日 割出 北斗恵栽園クワガタ発酵マット@250ccプリカ
2021年12月22日 マット交換(コバエのせい)
2022年2月21日 羽化
♂⑤26.8mm PNWF3-24
2021年9月28日 割出 北斗恵栽園クワガタ発酵マット@250ccプリカ
2021年12月22日 マット交換(コバエのせい)
2022年2月21日 羽化
♀18.5mm PNWF3-22
2021年9月28日 割出 北斗恵栽園クワガタ発酵マット@250ccプリカ
2022年1月9日 羽化
♀最大個体。
♀は他8頭、羽化不全1頭。画像割愛。体長は17ミリ後半~18ミリ前半で、特別逸脱した個体はなし。
6.長歯?について
最近、ノズノコギリの長歯?と言われる個体が散見されます。多くの方が指摘している通り、私もフランシスノコギリとの交雑個体であると考えています。理由は
・頭楯形状がおかしい
・体色がノズにしては暗い
・ノズ、フランシスともに(私の知る限りでは)大アゴは体長に比例し連続的に変化するため、突発的に長歯が発現するようなことは考えにくい
以上です。もちろん完全には否定できませんが…。というわけで、検証として次世代でHB作ろうと思います。あつらえ向きにノズもフランシスもいっぱいいるので。震えて眠れメ○ラ共
参考:ノズとフランシスの比較
同定ポイントは個人的な見解なので、悪しからず。
フランシスノコギリ♂
フランシスノコギリ(左)とノズノコギリ(右)
フランシス:前胸は後方でくびれる。二小山状の頭楯が強く発達。基部内歯が出現。体色の赤みはそこそこ(個体差あり)
ノズ:前胸は丸みを帯びる。頭楯は発達せず、小さい突起が二つ出現する程度。基部内歯は見当たらない。体色の赤みは強い(個体差あり)
これは比較画像としては不適ですね…
フランシスノコギリ♀
ノズノコギリ♀
フランシスノコギリ(左)とノズノコギリ(右)
フランシス:体形は細長く、体色は黒色~赤みを帯びるものまで変異が多い。後胸腹板は赤みを帯びる。
ノズ:体形は丸っこく、体色はほぼ黒色オンリー。後胸腹板は黒色。
慣れると容易に判別つきます。
7.まとめ
・飼育そのものは多くのノコギリ飼育に準じ、容易
・幼虫は虚弱の傾向があるが、低温にはある程度対応可能
・大型個体を狙うには大きめの容器を使う方がよい?(要検証)
・♂の蛹はティッシュ蛹室に入れない方がよい
以上です。難しくはないですが、幼虫が弱っちい(少なくとも我が家では)のが欠点といえます。
それでも独特の風貌はやはり魅力的で、一度手に取ってみてほしい種類のひとつです。価格もこなれてきましたので、怪しい個体に注意しつつ、是非飼育に挑戦してみてはいかがでしょうか。
8.参考資料
・BE-KUWA No.46 世界のノコギリクワガタ大特集!!(むし社)
・BE-KUWA No.79 世界のノコギリクワガタ大特集!!(むし社)